富久長共通

富久長の技

目次

海風土(シーフード)について

「海風土(シーフード)」は、その名のとおり魚介類との相性を考えて新しく開発したお酒です。まぎれもなくお米から造られた「純米酒」なのですが、初めて口にされる方はその新しい味わいに驚かれるのではないでしょうか。

「広島の食べ物」はいろいろありますが、真っ先に浮かんでくるのはやはり、全国一の生産量を誇る「牡蠣」でしょう。富久長の蔵がある安芸津町の三津湾は瀬戸内海の中でも清浄な海域で知られ、生食用牡蠣の産地として有名です。あまり知られていないことですが、生食用の牡蠣というのは、保健所に指定された清浄な海域で採れたものであるか、もしくは定められた浄化処理を行なったものでなくてはなりません。浄化処理の良し悪しは別としまして、水揚げしたばかりの牡蠣をすぐそのまま食べても安全と認められているくらいきれいな海ですから、安芸津町は牡蠣に限らず様々な海の幸の宝庫です。

富久長の蔵から港までは歩いて2、3分の位置関係なので、当然ながら昔から富久長の酒は海の幸との相性を重視して醸されてきましたが、2014年にちょっとした転機が訪れました。ある酒販店さんから『牡蠣にあう酒をつくってもらえないか』と依頼を受けたのです。これまでの富久長のお酒でも牡蠣との相性に自信はありましたが、改めて依頼を受けて、もう一度掘り下げて考えてみようということになりました。

牡蠣というのは、生牡蠣・焼き牡蠣・牡蠣フライなど、レモンを搾って食べることの多い食材です。レモンの酸味が牡蠣の鮮烈すぎるほどの風味をうまく和らげてくれ、互いに引き立てあう名コンビでしょう。またイメージ的にも、広島県は貴重な国産レモンの日本一の生産県でもあります。日本酒なのでレモンを入れる訳にはいきませんが、レモンのような爽快な酸味を持たせられれば、牡蠣によくあう新しい日本酒になるのではないかと考えました。

レモンに特徴的な酸味といえばクエン酸です。ただ、普通に造った日本酒に多く含まれるものではありません。そこで注目したのが、普通では焼酎を造るのに用いられる白麹。日本酒で使われる黄麹とは異なり、クエン酸を多く作る菌種が選抜されているそうなので、今回の目的にはちょうどよかったのです。日本酒らしく仕上がるかどうか、そもそも上手く発酵してくれるかなど、いろいろと心配と工夫はありましたが、想像していたよりは順調な経過を辿り、考えていたのに近い酒質が得られました。

通常の日本酒に多く含まれる乳酸などは、どちらかと言えば温めて活きてくる酸。だからこそ燗酒の文化があるのです。対してクエン酸は、むしろ冷やしてキリリとシャープさが光ります。そこが、牡蠣などにあうのですね。しかも風味や後口は日本酒なので、魚介類の生臭みをきれいに流してくれます。フランスなどでは生牡蠣に白ワインをあわせますが、どうしても生臭みが口の中に残ってしまい、イヤな感じがします。しかし日本酒ならばそのイヤな印象がありません。

爽やかな酸と、魚介類の生臭みを流す後口の良さ。その上、アルコール度数も13〜14度台と普通の日本酒よりも低めにしていますから、お料理と一緒にグラスを重ねるのに最適です。はじめは牡蠣専用と思って開発を始めたのですが、牡蠣に限定してしまうのは勿体ない。魚介類なら何でもOK。本当はレモンをかけて食べるような料理ならば、大抵は(肉料理でも)大丈夫ではないかとも思うのですが、安芸津の地と目の前に広がる海の豊かさに敬意を表し、『海風土』と名付けました。読みは分かりやすく、「シーフード」です。直球ですが、富久長の想いを表現した名前だと感じています。

白麹を使う技術もその醸造法もまだまだ未知の部分や工夫の余地がたくさんあり、逆に言えばそれだけ洗練の楽しみがあります。その中で、より酸味を高める造りをしたものが『海風土 Blue』です。こちらは先入観ナシで飲んだら本当に白ワインと勘違いしてしまいそうですが、日本酒らしい後口と包容力は健在。白麹による酒造りの将来性と言いますか、懐の深さを感じさせます。

お客様の満足のために、これからも進歩していく富久長のニューウェイブ、それが『海風土』シリーズなのです。

ハイブリッド酒母とは

富久長は、小味の効いた瀬戸内の魚介類、特に鯛やメバルなどの白身の魚にあうような、広島伝統の軟水醸造法による吟醸造りをベースとした、繊細でやわらかい酒を追求してきました。ただこれらの特徴は、一歩間違うと線の細さや弱さと紙一重。そこで、「酒全体が太くなるのではなく、富久長らしい繊細さは保ったままで、味わいの下支えをしてくれるような、深い旨みやコクを加えられないか。」という目標を立て、新しい技術を開発することにしました。

注目したのは『酒母(しゅぼ)』または『もと』と呼ばれるものです。これは、日本酒の発酵の主人公である酵母を、純粋に大量培養する、いわばスターターです。

富久長では大きく速醸系と類別される酒母をつくり、酒造りを行ないます。これは醸造用乳酸を添加することで雑菌の繁殖を抑え、酵母を純粋培養する手法です。操作が簡便という利点もありますが、特に、味のきれいな酒母を得られるという点が、富久長の酒質に適していると考えています。

一方、古来から伝わる生(き)もと系酒母という手法もあり、こちらは自然界の亜硝酸菌や乳酸菌といった微生物のはたらきによって雑菌を淘汰し、酵母を純粋培養します。乳酸は、速醸系酒母では人為的に添加されますが、生もと系酒母ではこの乳酸菌によってつくられます。各種微生物の繁殖と淘汰を繰り返す複雑なつくり方で、酒に独特の旨みと個性を与える一方、操作が難解で長い日数を要し、安定して量産することは難しいとされています。

生もと系酒母は酒に個性が出すぎるように感じ、富久長の繊細さや香りと相容れないように考えていました。ただ、生もと系酒母を用いた酒に、複雑な酸や旨みが生まれることは確かです。「その長所を程よく取り入れることができるならば、富久長の酒に厚みを加えられるのではないか。」という着想は、以前から抱いていました。

ただ、その「程よく」が難題です。普通の生もと系酒母になってしまうと、旨みや酸の濃い、「生もと系酒母の酒として美味しい酒」にはなるかも知れませんが、富久長の酒の中では浮いた存在になってしまいます。そのような酒を目指してはいません。
我々は、生もと系酒母で酒造りをしたいのではなく、目標とする酒に近づける方法を模索しているのです。「生もと系酒母を、生もと系酒母らしくなく作る。」普通に考えると少しおかしな方向性だからかも知れません。その方法を思いつかぬまま、数年が経ってしまいました。

転機は平成25年夏に安芸津で行なわれた広島県の酒造講習会です。講師として来てくださった高名な杜氏の方が、「最後に一本だけ酒を造るとしたら、どんな酒を造りたいですか?」との質問に、「山廃(生もと系酒母の一種)を造りたい。米なんか何でもいい。加工用米でもいい。山廃を造りたい。」と仰ったのです。まるで、山廃でありさえすれば他はどうでもよいとでも言うような口ぶりに、そこまでの思い入れを抱かせる生もと系酒母というものに、富久長の方向性とは関係なく興味を覚えました。

しかし、講習会後の懇親会で酒母造りについて詳しく話を伺いますと、「速醸酒母の間で一本だけ山廃を造ろうとしても、必ず失敗する。どんな熟練した人でも失敗する。」と断言されるのです。
「かくも生もと系酒母とは難しいものか、必ず失敗するというものを、そのまま追う訳にはいかない」と、半ば舌を巻きつつ、別のことを考えました。「逆に、上手いこと失敗できれば、ひょっとして生もと系酒母らしからぬ生もと系酒母になるのではないか」と。その方向で、他の造りに関係なく安定して計画醸造できる、新しい手法を考え始めました。

ベースに据えたのは、各地の国税局で鑑定官室長を務め、酒造りや酒米作りに多大な功績を修めた故 永谷正治先生の言葉です。かつて山廃酒母について伺ったときに、「山廃やりたければ、普通に酒母造ってから乳酸菌で汚せばいいじゃないの。」と、事も無げに仰ったのです。酒母は酵母の純粋培養が目的ですから、乳酸菌で「汚す」という発想に驚愕しました。しかし、乳酸菌をわざと添加するのは、少なくとも素性の知れない自然界の乳酸菌が繁殖するのを待つよりも安心できると感じました。

しかし、普通に酒母を造るということは、初期の雑菌汚染を防ぐために、醸造用乳酸を添加することになります。予め乳酸が大量にある状態で、果たして乳酸菌が新たに乳酸を作ってくれるのでしょうか。仮に上手くいったとしても、乳酸菌由来の乳酸と、添加した醸造用乳酸の両方が混在するのは、あまり楽しくない気がします。とは言え醸造用乳酸を入れたくなければ、雑菌汚染を防ぐ別の手立てが必要となります。

そこで、高温で仕込むことによって野生酵母を滅菌すると共に、麹の糖化酵素を最適温度ではたらかせる高温糖化を採用することにしました。速醸系酒母の中でも特にきれいな酒母となるので、富久長の酒質に適しており、よく用いる手法です。これならば一度滅菌されるため、安全に乳酸菌をはたらかせ、乳酸をつくることができます。

ただ、この手法では逆に、野生酵母は高温によって滅菌されるため、乳酸菌のはたらきによって淘汰されるというプロセスがありません。酵母が純粋に培養できれば、酒母としてはOKではあるものの、乳酸菌は単なる乳酸を得るための道具ではないと考えていた我々にとって、少し物足りない気がしました。乳酸が乳酸菌由来になるだけで、酒母としてはそれほど違いは生まれないのではないか、と。
生もと系酒母の個性が出すぎても困りますが、速醸系酒母と違いがないのでは、本来の目的を果たせず、新しい手法をとる意義がありません。

そこでまた逆転の発想です。生もと系酒母で最も怖いとされる「早沸き」に注目しました。簡単に言えば、乳酸菌によって淘汰される前に、野生酵母が増殖してしまった状態です。つまり全滅せずに生き残りさえすれば、その後酵母は増えられる、ということになります。上手に「早沸き」という失敗をさせてやれば、乳酸菌のはたらきを抑えて、生もと系酒母らしさをコントロールできるのではないでしょうか。

もちろん得体の知れない野生酵母が増えてしまっては仕方ありません。しかし目的の酵母が「早沸き」すれば、乳酸菌による乳酸の生成と酵母の淘汰、残った酵母の増殖を両立できるはず。つまり乳酸菌を培養した酒母を、優良酵母で「汚す」ことにしたのです。

このようにして、高温糖化酒母の方式で乳酸菌の酒母をつくり、優良酵母との拮抗作用を人為的に引き起こして乳酸菌のはたらきをコントロールする、新しい技術が生まれました。

HYBRID(ハイブリッド)とは『異種のものを組み合わせた』という意味の言葉です。 新しく開発したこの技術は、現代的な手法である速醸系の高温糖化酒母と、古来伝統の生もと系酒母を組み合わせたもの。まさしくハイブリッド酒母です。

そしてこの酒母を用いた酒は、吟醸造りをベースとした富久長の繊細さと、生もと系酒母由来の力強さを併せ持つハイブリッドな酒となりました。

ただこの新しい酒が、これまでの速醸系酒母で造った酒よりも優れているかと言いますと、必ずしもそうとは言い切れません。どちらもそれぞれに良さががあります。目的にあわせ使い分ければ、より魅力的な酒をお届けできることでしょう。そのための手法のひとつとして、今後もハイブリッド酒母の技術を磨いていきたいと思います。

HYBRID links the past and present to the future.
ハイブリッド。過去と今を未来へつなぐ。

過去の経験と今の実践を糧に、より高い理想の未来を目指す。
ハイブリッド酒母は、富久長の掲げる「百試千改」の精神そのものなのです。

「ハイブリッド酒母」の名称について

高温糖化酒母に乳酸菌を添加する手法を採る蔵は他にもあるようで、「高温糖化山廃」などと呼ばれることが多いようです。しかし実際に酒母を造ってみた印象からしますと、操作としてはほとんど高温糖化酒母なので、「生もと系高温糖化酒母」と呼ぶのが妥当と感じています。
生もと系酒母のうち、山卸という米をすり潰す大変な作業を行なうのが「生もと」、行なわないのが「山廃」という分別が一般に為されるため、「山廃」の名称を用いるらしいのですが、ベースが麹の糖化力で溶かす高温糖化酒母ですから、山卸など全く関係がありません。そもそも「山廃」の「廃」の字が、美味しい飲み物につけるべき漢字であるとはとても思えません。
そのため、少なくとも富久長では、「山廃」の名称は使いません。

しかしながら「生もと系」という言葉も、昔ながらの山卸を大変な熱意でされている生もととは異なるものですし、また「生酒」と勘違いする方もいらっしゃるかもしれませんので、なるべく用いたくありません。

そこで富久長では、生もと系酒母の思想と速醸系高温糖化酒母の操作性安定性を組み合わせた酒母ということで、「ハイブリッド(異種のものを組み合わせた、という意味)酒母」と呼称します。
他蔵のされている「高温糖化山廃」と同じ造り方かどうかは分かりません。同じかもしれませんし、違うかもしれません。
ただ、富久長では「ハイブリッド酒母」と呼ばせていただきます。どうぞご理解くださいませ。

富久長のプレミアムシリーズ「仙」

特別なお米を用いた特別なお酒のシリーズです。
山田錦の産地兵庫県の中でも特A地区に指定される、最高のお米を用いたお酒。
純米吟醸・純米大吟醸50・純米大吟醸40の3種類を販売しますが、このうち東条産の純米大吟醸40のお酒が広島国税局清酒鑑評会の「味を主たる特徴とする清酒」部門において優等賞を受賞しました。お米の旨みをぜひお確かめください。
また、同じく「燗酒」部門において、「辛口特別純米 鼓」も優等賞をいただいております。こちらもお試しください。

キーワードで探す